あれから君のことは、
そう しばらく思い出さなかった。
慌ただしい日々のおかげで。
青空。
どす。
どすどすどす。
「・・・・おい」
こめかみをひくつかせ、ビクトールは唸る様に呟く。
そんな彼にかまわずは行為を続ける。
自分の頭に手を置いてそのままの高さでビクトールの肩らへんに、どす、と水平チョップする。
要は、ビクトールと背を比べているのだ。
一度ならともかく、何度も何度もしてくるので、いい加減ビクトールも不満を漏らす。
「あのな・・・何度やったって俺の方が高いに決まってるだろーが」
チョップを止めないその手を捕らえれば、視線を上げて自分を睨む目。
「ばーか」
視線をふいっと横へ反らして、むーーっとは頬を膨らませた。
ガキか、こいつは・・・。
はぁぁぁと頭を抱え深くため息をつく。
の頭にぽんっと手を置いて、わしゃわしゃと撫でた。
「なんで俺が馬鹿なんだっつーの」
「馬鹿じゃん」
「だからなんでだ?」
「馬鹿だから」
「・・・何怒ってんだよ」
はっきり言って、今日はの気に障ることはしていない。
いつも通り朝一緒にニケ城を出て、戦闘をして。
今はその休憩時間。
さっきまでの機嫌は良過ぎという位だったのに。
「なんかしたかー?俺」
「・・・した」
いつもより低い声で頭にあるビクトールの手をひっつかむと、そのまま引き寄せた。
その辺の男よりよっぽど力があるにひっぱられては、流石のビクトールもよろめく。
前かがみになった目の前の大男。
はわしっとその黒い頭を掴んだ。
「・・・なんだよ・・」
微妙な体制でに頭を押さえられてしまったビクトールは辛そうにくぐもった声を出す。
「小さくなってよ、背」
「は!?」
「だーかーらー、無駄にでかい図体してんなってこと!」
「お前な。んなこと出来るわけねぇだろ!」
「あたしが・・・小さく見えるでしょ!」
ぐぐぐぐ、とお互いを押し合って、にらみ合う。
というか、そんなことでこいつは怒ってんのか?
今更なことに、何故は腹を立てているのだろうとビクト―ルは内心首をかしげていた。
暫くそのまま押し合っていたが、力でビクトールに勝てるはずもなく、は腕をまた取られてしまう。
ビクトールの大きい掌では、の手首を軽く一周してしまった。
はぎゅっと唇を噛んで俯いてしまう。
「よー?ほんとどうした」
その見えない顔を覗き込むようにすれば、自分の頬に当たる冷たい雫。
ぽろぽろと、の瞳からは涙が溢れていて。
「えっ!!っおい?」
いきなり泣き出したに、ビクトールは焦る。
そっとその涙をぎこちなく指で拭ってやれば、はその手を思い切り叩いた。
「あんたが!!怪我なんかすっからでしょうが!!」
震える涙声で叫ぶ。
ビクトールは思わず驚いて、目を丸くした。
「怪我?」
ああそういえばとビクトールは包帯が巻かれてる、自分の肩を掴む。
ついさっき、魔物につけられた傷だ。
あの時がが怒っている原因?
普段あまり使わない頭を回転させて、その場面を思い出す。
「あ・・・・お前、もしかしてあれ気にしてんのか?」
ぼそりと問えば、思いっきり腹を殴ってきた。
油断してたため、腹筋に力を入れてなかったビクトールは、少しうめく。
「うっ・・・ってぇな。つーかお前気にしすぎだって」
「うっさい!」
「別にあたりまえだろーが、お前とマイクロトフじゃ力の差があるし」
ため息交じりの声に、はまたビクトールにパンチを食らわす。
が、今度はぱしりと受け止められてしまった。
ぎゅっと掌に包まれる拳。
はまた、うつむいてしまう。
涙は止まったようだが、体が少し震えていた。
「・・・あたしは・・・守りたいんだよ。守られたいんじゃない」
ああそうか、とビクトールはの機嫌の悪さの根源を理解した。
は怒っているのではない、悔しいのだ。
先ほどの戦いで、傷ついた自分を魔物の攻撃からは守ろうとしてくれた。
しかし結果としてその自身も傷つき、マイクロトフが自分たちを守ってくれたのだ。
確かに今思えば、あの時から様子がおかしかったな、とビクトールは思った。
「・・もっと背があったら、もっと大きかったら、もっと力があったら、みんなを守れるじゃんか・・・」
最後は拗ねた子供のような。
ビクトールは笑って、両手での顔を包みつぶした。
「むっ!!」
「ばーーーか!お前は十分強ぇよ。それにみんなを守ってるって」
きゅっとその台詞にの眉がしかめられる。
手を緩めて、にっとビクトールは歯を出して笑った。
「知ってるか?守られてるから、俺たちはお前を守りたいんだ」
・・・・。
「くまのくせに・・・」
泣ける事言うなよ。
はなんだか顔が熱くて、目の前のにやけ顔を軽く拳で殴る。
いて、と笑いながらビクトールは降参と両手を挙げた。
先ほどまでの身を裂くような悔しさも、今は不思議と解けている。
大きく息を吸い込んだ。
「・・・でも」
くるりときびすを返して背中を向ける。
顔だけビクトールに振り返った。
「普通に、背はもうちょっと欲しいかも」
『・・・もし私の背があと少し低かったら・・あんたと・・』
ふ、とビクトールは笑う。
「どっちでもいいんじゃねぇか?背が高ろうが、低かろうが、お前はお前だろ?」
「そう?」
「ああ」
「ー!ビクトールーーー!!出発するよーーー」
遠くの方から、ナナミの声がした。
は軽くそれに答えて、駆け出す。
と、またビクトールに走りながら振り向いた。
「さっきは悪かった、小さくなれ!なんて言って」
にぱ、と微笑む。
「ビクトールもでかくてもちっちゃくても、あたし達が守ってやるから!」
走り去る、背中を見つめて。
ビクトールは頭をがしがしと力いっぱい掻いた。
「・・・かなわねぇな」
そんな、いつかも呟いた言葉は穏やかな風に攫われて。
空は、眩しいほどの晴天だった。
END
ビクトールは保護者っぽいな。
というか、そんなビクが私は好きです。
アナベルさんってかっこいいですよね、ぜひともビクとくっついてほしかったけども。
これはゲーム中に思いついたネタ。
ぱぱぱっと書いてしまったので、どこか違和感が・・。
ヤムとでは作り出せない安心感が、ビクとはできますね。
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