「それじゃ、いっくよー」
ビッキーが杖を掲げて、なにやら詠唱を始める。
はゆっくり目を閉じて、次に来るであろう浮遊感に身構えた。
「えーい!」
ぐんっ!!とまるで魂だけを引っ張り出されて、その後に体がついてくるような感覚。
そんな状況に毎度の事ながら眩暈を感じたとき。
「・・あ!!」
願。
ああもう。
確かにさー、サウスウィンドウまで行くのに徒歩らなかった私も悪いよ。
でもあのちょっとの距離がだるいんだもんよ。
わかるっしょ?
「・・おいお前」
それにしても、馬鹿ビッキー・・・。
なんでまた行った事ないとこに飛ばすかなー。
「おいって!」
それに道に迷うし、最悪・・。
大体皆がいる時ならともかく、
あたし一人の時に失敗しなくてもさー・・。
「〜〜〜っ聞いてんのかこのクソ女!!」
「ああ!?誰がクソ女だ!!」
先ほどから煩い声にカチンときた。
思わずは反射的にその首根っこを掴んで引き寄せる。
ぎろり、とビッキーの事もあって最高潮に機嫌の悪い目で睨みつけた。
と。
「・・・はい?」
きっと今絶対自分の血に温度計を当てたらマイナスを行くと思う。
先ほどとはまた別の意味でカチンとなってしまったは、だらだらと冷や汗を流した。
そんないきなり態度が急変したに、不思議そうにする目の前の男。
「?・・まあいい。お前こんな所で何してんだ。ここはハイランドの領域森林だぜ」
首に掛けられていた手を外しながら、淡々と言う。
赤い髪を掻き揚げて返答を待っている片手には、いつでも抜けるようになっているレイピア。
ぎゃぁああああ!!!!!
ビッキーの馬鹿ぁぁああああ!!!!!!
何でまたハイランドになんか送るんですかアンタはぁぁあああ!!!!
内心そんなことを叫びながらも、とりあえずこの場をなんとかしなくてはと引き締める。
それというのも今、目の前にいる男はハイランドの将軍の一人シードだ。
はっきり言って、一人でなんとか出来る相手であるとは自信を持っては言えない。
「答えろ。返答によっては容赦しねぇぞ」
ちゃ、と鞘から少し剣体が光を反射する。
「・・・・」
どうやらシードは自分の顔に見覚えはないらしい。
安堵しながらも、袖下に隠している短刀の柄を手の平に当てた。
「領域・・?へぇそうだったの。知らなかったわごめんなさい。私放浪傭兵なのよ」
にっこり作り笑顔で答えれば、シードの眉がぴくりと跳ねる。
は冷や汗を気付かれないように垂らした。
片手に取った短剣をぎゅっと掴み、背中の札にそっと手を忍ばせる。
暫くにらみ合いが続く。
シードの瞳は一時たりとも自分のそれから外れず、まるで探られているようだ。
しかし、そのまま見返す。
1、2分だろうか、森の静寂は今のの耳には入らなかった。
どくんどくんと自分の心臓の音が聞こえる。
カシン。
そんな静寂を破ったのはシードの剣が鞘に収まった音だった。
同時に鋭かった瞳も和らいで、辺りに張り詰めていた殺気も森の気配に溶ける。
「・・そうか。なら早く立ち去れよ。見回ってるのは俺だけじゃないからな」
ほ、と付きそうになる体を叱咤して、にこりと口元に笑顔を乗せた。
「ええ、ありがとう」
台詞の最後の方が不自然に掠れてしまったが、どうやらシードは気付いていない。
ぺこりと軽くお辞儀をして、くるりと来た道に振り返った。
猛烈にダッシュしたいが、それも早足に押さえる。
暫くは背中に感じていた視線も、ふと消えたその時。
どんっと地面ばかりを見ていたは誰かにぶつかった。
「あ、ごめんなさ・・い!!」
習慣的に謝って、どうやら自分より身長があるらしいその人物を見上げてまた固まる。
自分を支えてくれてた手袋をはめた両腕がぴくりと動いたのを感じた。
「貴女は確か・・・」
やばい!!確かこいつとは戦場で一対一をやったことがあるぞ!!
名前は確か・・クル?なんとかだった気が。
ともかく一難去ってまた一難ですかい!!!
男が顎に手を当てて自分を見下ろす。
すると達に気づいたのかシードが歩み寄ってきた。
「おー、クルガン」
てけてけと自分の隣に来て、腰に手を当てるシード。
ぽん、との肩に手を置いて、クルガンを見上げた。
「大丈夫だぜ、こいつはただの傭兵だってよ」
おお!いいこと言うじゃんシード!
内心ガッツポーズを取りながらも、ニコとしとやかな笑顔をクルガンに向けた。
するとクルガンも、そっと紳士的な笑みを浮かべる。
片肩に合った手が外されて、す、と頭を下げられた。
「?」
「おい、クルガン?」
そんな行動に、とシードは同時に?マークを頭に浮かべる。
「私は敵にいきなり切りかかるほど野暮ではないので。それでは失礼します」
「!!!」
いきなり俯いていたクルガンが剣を振りかぶってきた。
ほとんど野性的カンでそれをしゃがんで避ける。
続いて切りかかってくるそれに、肩にあったシードの腕を取り、引き寄せ盾にした。
それによって一瞬動きが止まったクルガンに、先ほどから忍ばせていた短刀を投げつける。
しかし、簡単に弾かれるのが視線の端に見えた。
同時に後ろへ大きく跳んで、間合いをつける。
は、と詰めていた息を吐き、挑発的な笑みを浮かべてみせた。
「へぇ、ハイランドの将軍さんは口だけ?いきなり切りかからないんじゃなかったの?」
ぴん、と張った互いの気配。
クルガンは剣先を地面に向けて、少し笑う。
「私は失礼しますと言いましたよ?ねぇ、都市同盟軍隊長さん」
「ぐ・・軍隊長ぉ!?この女がぁ!?」
やっとこさ状況が飲めたのか、シードがに驚嘆の視線を向けた。
つーか遅!読め読め、状況を!!
「一応そんな役職いただいてまーす」
へらへらと笑って、頭を掻いた。
しかしどれだけ鈍くても将軍は将軍。
今度こそ抜いたレイピアを構えるシードから、スキを見つけるのは困難なようだ。
「何故こんな所にいるのかは知りませんが、立場上黙って見過ごすわけには参りませんのでね」
長剣を一瞬持ち上げたかと思うと、一気に距離を詰めてくる。
ガキン!!と右手の短剣でクルガンの一太刀を受けるが、流石に受けきれず弾かれた。
よろめいてしまった体に無表情で迫る青い刀身。
「・・っ!!」
痺れて動きが鈍い右腕に走る激痛。
それに眉を顰めながらも、隠し持っていた「おどる火炎の札」をクルガンの眼前で発動させた。
「くっ!!」
自分も近くにいてかつ森の中のため効力は4/1辺りに押さえているが、クルガンの身を引かせるのには十分だった様だ。
その隙に逃げ出そうと足を反対に向けたが、一瞬背筋を走った殺気に身を張る。
ヒュッ!!と空気を切る音が耳を掠めた。
背に差していた大剣を抜き、それを受ける。
「へぇ、やるじゃん」
ぎりぎりと重ねあった剣越しに、いきなり攻撃してきたシードが笑った。
猛将と言われるだけあって、レイピアで自分の大剣とかち合いが出来るとは流石と言った所か。
「どうも♪あんたもアホでも将軍ってとこかな」
「アホってなんだ!!アホって!!」
ムキになって言ってくるシードに、にっこりんと最高の笑顔。
「そのままの意味だよ、シード君。それに、戦いは常に冷静じゃないとね、かがやく風v」
「んな!!」
会話にまぎれての左手に宿った旋風の紋章が光り輝いた。
銀色の風がシードを包み込み、大きくふっとばす。
どさり、とクルガンの隣に倒れ痛そうにうめいた。
クルガンはそんなシードに視線を下ろし、すらりと視線を流してくる。
「流石、やりますね、殿」
「どうもー♪」
ひらひらと左手を振って答えた。
しかし実際、先程貫かれた右腕は血だらけでもう殆ど感覚がない。
余裕の顔を作ってはいるが、いつまで続くか自信はなかった。
それに今の魔法だって、自分の実力では一回が限度。
かばっ!といきなり復活したシードが、びしっとを指さして来る。
「てめぇ!!いきなり風系最強魔法使うなんて卑怯だぞ!!それもサラリと唱えやがって!!」
「あははー、だってじゃなきゃアンタには当たらないじゃん」
だらりと垂れた右手から、利き手ではない左手へ剣を持ち直す。
クルガンはその様子に少しだけ目を細め、剣を降ろした。
軽く俯き、目を伏せる。
「?」
別に先程のように礼をしているわけではないようだ。
しかし、良く目を擦れば、その隠れた口元が少しだけ動いているのが見えた。
まずい!!この男紋章も持ってたか!!
「・・っ!切り裂」
こちらも魔法を発動させようと左手を臥かざすが、しかし時すでに遅し。
クルガンの唱えた「ねむりの風」によって、はがくりとその場に倒れこんだ。
意識が飛ぶ寸前、歩み寄ってきたクルガンが真摯な顔を浮かべているのが見える。
「不意打ちは貴女に教えていただいたんですよ?殿」
うっわ、嫌味大爆発だな。とかこんな状況でも思って。
白くなっていく世界がまるで人事のように感じながら。
そのまま意識を深く深く埋めた―――――。
「・・・っ」
ぞくり、と背筋が凍るような感じ。
それにヤム・クーは思わず立ち上がってしまう。
周りを見渡しても、それはいつもと同じ船着場の風景。
ざぁっと潮風がその金糸を揺らして隠された青をばらす。
ドク、ドクと心臓が激しく血液を循環していた。
は、と耐え切れず息を一つ零してしまう。
「・・・・さん?」
遠い。
そのあまりにも遠い呼びかけに、ヤム・クーは溜まらず駆け出した。
next
初ハイランダーズドリー夢です。
しかしやっぱり根元はヤムがいますけども・・。
とりあえずハイランドの人達全員は出してみたいです。
にしても戦いの場面書くのって楽しいですね、むつかしいですが。
シードとクルガンをこうやって文にするのは初めてですが、なかなか楽しい2人です。
ぜひ連載ですが、見てやってくださいませ。
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