「ねぇ、ヤムってどうしてピアス片方しか空けてないの?」
「これですか?」
「うん。どうせなら両方空けたらいいのに」
「ちょっとね、待ってるんですよ」
「は?何を?」
「あはは。今は秘密です」
「けちー」



ピアス



太陽が真上らへんまで来た頃。
とビクトールはサウスウィンドウまで買出しに来ていた。

「おい、これで最後か?」
殆ど荷物もちのビクトールが、店員からヨシノに頼まれた洗剤を受け取る。
隣でメモを見ていたは、そこに並んでいる文字を上から見直した。
「えーと、封印球は全部買ったっしょー?他のも買ったし、・・うんこれでラスト」
とん、とメモを一つ叩いて、頷く。
ビクトールも返すように頷いて、肩に背負っていた荷物を担ぎなおした。
「んじゃ帰るか」
「そだね」
昼時の市場はなかなか込んでいて、歩き出せば、対して歩いてくる人を避けるのに忙しい。
そうしている内に、路地の端に無意識に寄ってしまう。
と、いきなりの体がぐらりと傾いたので、後ろに居たビクトールはその脇に手を入れて支えた。
そのせいで手放した荷物が足元に転がり落ちる。
「っとー、おい。大丈夫かよ」
上から覗き込むようにして言えば、うるうると涙目のの顔が返って来る。
「な、なんだよ、足でもくじいたか?」
の涙にうろたえながら問い掛ければ、ぐっと何かを押し付けられた。
それは見事ぱっきりと、かかとが折れてしまったサンダルで。
「買ったばっかりだったのにーーっっ!!」
うぇぇぇぇっ!と大号泣するに、ビクトールは頭を抱える。
「んだよ、そんなことか」
「そんなことだぁ!?この馬鹿熊!!これいくらしたと思ってんのさっ!」
胸倉を掴んだは、ぎろりとビクトールを睨みつけた。
それに深くため息をつく。
「知るかよ」
「なら耳かっぽじって聞きな!!じゅ」

「130000ポッチ」


ふと、後ろから聞こえた声に、思わず2人は動きを止めた。
ゆっくりと振り返れば、薄暗い路地奥に一人の老婆らしき人が一人。
老婆は楽しそうに喉を鳴らすと、しわがれた顔を更に歪ませて笑う。
「その靴、130000ポッチ、じゃろ?」
指輪だらけの指が、の手に掛かっている壊れたサンダルを差した。
それに少し呆然としていたは、ハッとして頷く。
「え?ああ、うん。というかなんで分かったの?ばぁさん」
もしかして靴マニア?等と笑い混じりに言いながら、
は、けんけんと壊れていない片方の靴だけで老婆の傍に歩み寄った。
ビクトールもその後ろに続く。
「一応占い師の端くれじゃからな、お前達が同盟軍の奴等だということも分かっておる」
「は!でもよ、ばぁさん。靴の値段だってそれこそマニアなら知ってるし、俺等のことだってここらじゃ有名だろ」
まったく信じていないビクトールの言葉に、はため息を付いた。
「嫌だねぇ、夢も乙女心もない熊ってのは」
やだやだと大げさに肩を竦めてみせる
それにむっとするビクトールだが、特に反論する言葉も見つからず、そっぽを向いた。
そんな2人の様子に、くっくっくっと老婆は小さい体を震わせて笑う。
しわくちゃな手がの頬に伸びてきて、一瞬その冷たさに体を震わせた。
「お前さんは信じてくれてるようだから、いいことをしてやろう」
細い老婆の青い瞳が、更に細まる。
は少しの恐怖と多大な興味に、その瞳を見つめ続けた。
「お前さん『大切な人』がいるね?」
「大切な?」
言われて、瞬間脳裏を過ぎったのはいつも潮風に綺麗な金髪を流している彼で。
素直にこくん、と頷く。
「その『大切な人』を、今からあんたは13年前に遡って助けなくちゃならん」
「は?」
老婆の言葉がよく理解出来なくて、思わず聞き返した。
それでも老婆は言葉を続ける。
「いいかい、期間は四日だ。その間に必ず助けるんだよ」
「ちょっ、よく分からないんだけど・・?」
どんどん進む展開に、はもう頭がパニックだ。
頬を包んでいた老婆の手が、なぞるようにして額に回る。
指先を当て、口元で唱え始める何かの呪文。
いい加減異常に気付いたのか、ビクトールが老婆の細い手首を掴んだ。
「おいっ、何してやが」
『彼者をその地へ送れ!!』
老婆の掠れた声が聞こえたその瞬間、触れた指先からとてつもない光が放たれる。
はその光に目が眩み、不思議な浮遊感を感じた。
近くからビクトールの声が聞こえていたが、眩しさのあまり姿は確認できない。


っ!」
その声も、町の騒がしさもひどく遠くて。




たまらない浮遊感が体を額から足の先まで支配していくのが分かった。

「必ず、助けるんだよ」

老婆の声が頭に響く。
でももう頭の中はぐちゃぐちゃで。
どっちが右か左かも判断できない。
ただ上へと、何か引っ張られていくような感じがした。



ふあふあとゆっくり。

ぎゅんぎゅんとはやく。



飛んでいく。














眩暈にも似た感触は何時の間にか終わっていて。
そのかわり耳元に聞こえたのは人々が喋る音や、歩く音。
ゆっくりとは目を開いた。
一瞬眩しさに目を細めたが、すぐになれて何度か瞬く。
眼前に広がったのは、せわしなく人々が行き交う街中。
しかし、そこは明かに先ほどまでいたサウスウィンドウの路地裏ではなかった。
見回せば、近くに居たはずのビクトールと老婆もいない。

「それにしても・・・」
今自分が立っている街は、以前立ち寄ったことのある場所らしい。
解放戦争時はよく立ち寄った町、カクだ。
しかし、見た事の無い建物が有ったり、とにかく違和感がある。
ふと、視線の端に通った人物の姿に目を見張った。
「帝国・・・軍?」
その男の身なりは、今は無き筈の赤月帝国軍のものだ。
持っている旗もトラン共和国ではない、帝国の印がはためいている。
「・・どういう・・こと?」


『その『大切な人』を、今からあんたは13年前に遡って助けなくちゃならん』



嫌な汗が背中を伝った。
近くを通り過ぎた人が読んでいた新聞をむりやり奪い取る。
紙面上部に書いてある日付け。
それを見た時、はぱさりと新聞を地面に落とした。

「太陽暦447年・・・?」

ちょっとまってくれ。
確か今は太陽暦460年のはず・・・。

・・・・。
ってことは・・。





「ほんとに13年前に来たってことかい!!!!」







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まーた連載始まりました(苦笑)
ありがちネタを、ヤムでやらせていただきます。
つーか130000ポッチのサンダルって・・・高!!
久々にドリー夢書いた気が・・。
一応三話くらいにするつもりですが、書いてるのは私ですから(汗)
よろしかったら気長に待っててくださいませ。
てかヤムってピアスしてたか・・?






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