「さん、大丈夫ですかね」
のほほんと見上げれば、目を細めるほどの晴天。
ピアス
過去に戻ってしまったの頭の中はパニックだった。
頭を抱え、その場に立ち尽くしてしまう。
「ど・・っどうしよう・・・帰り方なんてわからんし・・・」
とにかく、落ち着こうと深呼吸を二度深く行った。
早鐘のように打っていた心臓も、少し落ち着く。
『その『大切な人』を、今からあんたは13年前に遡って助けなくちゃならん』
先程まで傍にいた、きっとこんなことになってしまった原因の老婆の言葉。
大切な人。
言われて瞬間思い浮かぶのは、やはり彼。
ということは、自分はその彼をこの時代で助けなくちゃならないのだろうか。
「・・・でも、それしか帰れる当ては無いわけだしなぁ・・」
てか自分独り言多いな・・などと苦笑しながら、頭を掻いた。
漏れたため息は、でも決して迷っているものではない。
「おっし、ならよく分かんないけど助けてやろうじゃんよ。覚悟しとけよ、ヤム!!」
ぐっと拳を握り、半分やけくそっぽい笑みを浮かべた。
でも、こうなったらやるしかない。
ごごごご、と燃えていたは、ふとあることに気付く。
「・・ちょっとまて。13年前ってことは・・・ヤムが15才の時だよね」
てことは、自分とまったく面識がない時ではないか。
今どこに住んで、今どこにいるかなんて、まったく見当がつかない。
「・・とりあえず、ヤム探しのが先だわな・・」
意気込んでいたのに、あまりにも地道な作業をしなくてはならないことを悟ったは、がっくしと肩を落とした。
そんな百面相なの横を、人々は不思議そうに通り過ぎていく。
と。
「こんのくそガキがっ!!!今なんて言いやがった!!」
いきなり聞こえたのは、男の怒声と、何かが壊されるような音。
それと同時に、路地の先に人だかりが出来ていく。
は垂れていた頭を上げ、反射的にそこへ走り寄った。
その場所を囲うようにして出来ている人の波を掻い潜って、なんとか先頭へ出る。
見えたのは数人のいわゆるごろつきと、そいつらのせいでよく見えないがどうやら少年が一人。
「聞こえなかったんならもう一度言ってやろうか、ごろつき野郎」
聞こえた少年らしき人物の声は、丁度声変わりの途中のような、少し掠れた声で。
「てめぇらみたいな弱っちぃ奴等なんかアニキの足元にもおよばねぇんだよ!!」
それでも十分な威圧感に、内心驚いた。
ぎり、とごろつき達がその言葉に拳を握るのが見える。
「ふざけんなよガキが!!!」
そんな怒声を発し、一人の男が少年に殴りかかった。
は素早く踏み出し、その男の腕を後ろから押さえる。
「やめなよ子供相手にみっともない」
ぎりぎりと関節を曲がるべき方向ではない方へ締め上げた。
男からはくぐもったうめき声が上がり、は身構えてる他の奴等ににっこりと笑いかける。
「もしこれ以上やるなら、あたしが相手になってあげるって」
余裕たっぷりの様子が気に入らなかったのか、男達からはからかいの口笛や笑い声。
一斉に周りを囲まれる。
「ふぅん、やる気満々って感じだねー」
「へへ、何をさせてくれるのかなぁ、可愛いお嬢さん」
「今更あんたなんかに言われなくても自分が可愛いって知ってるから、お気遣いなく」
「こりゃぜひともお相手願いたいね、色んなとこでよ」
下品な笑い声が巻き起こる。
は口元は笑顔のまま、鼻で笑い飛ばした。
掴んだままだった男の腕を強く引っ張って、そのまま男達に投げ飛ばす。
「うわっ」
思わず投げた男を受け止めてしまったごろつき達に向かって一気に走りよった。
体を反転させて勢いをつけ、一番端の男の顔に右ストレートを決める。
「っは!」
息を詰め、よろめいたその体に続けて顎下から殴り上げるアッパーで留めを差した。
見事にふっとぶ男に、はひゅうと口を鳴らす。
すると、びくりと唖然としていた男達が一歩後退した。
少ししびれた右手をふりふり、残ったごろつきを数える。
「ひぃふぅみぃ・・・残り5人ね」
にっとやけに楽しそうに笑って、両手の拳を合わせた。
「一人10秒がノルマってことで。覚悟よろしく」
ひらひらと手を振ったそのあとは、男達の悲鳴が止むことは無かった。
どさっ、と情けない顔をして気絶した男が地面に転がる。
「ん〜〜、残念。合計一分ってとこね。ノルマ達成ならずー」
ふみ、としぶとく足元でナイフを出した男の手を踏みつけた。
体を屈めて視線を合わせると、にっこりと笑ったままでこピンを食らわす。
するとやはりぎりぎりだったらしく、そのまま意識を失ってしまった。
静まり返っていた人々が、一気に沸き立つ。
やはり町の人たちも、こういった厄介者を痛ぶられるのは気持ち良いらしい。
それに軽く答えて、先程から忘れたままだった少年に振り返った。
壁に寄りかかるようにして腕を組んでいる少年は、前髪の隙間から睨み上げてくる。
感謝でもされると思ったは、思わずきょとんとしてしまった。
少年は近寄ってくると、ぐっと胸倉を掴んでくる。
よりも少し背が低いため、なかなか苦しそうな態勢だが。
「余計な真似すんな。あんな奴等、俺一人でもやれるんだよ」
ぎろりと青い瞳がの瞳を睨み付けた。
わざと低くしているような声が初々しくて、くすりと笑いを零してしまう。
すると、それが気に障ったのか、かぁっと怒りが顔に上がってくるのが見えた。
空いている方の手が振りかぶってくるが、はそれをなんなく掴み押さえる。
くやしそうに歪む顔に、また笑いながら、はふとその掴んだ腕に視線が行った。
男にしては白い腕には、所々出来たての生傷がたくさん有って。
よくよく見ると、足元がおぼついていない。
・・・なるほど。
「・・・んだよ」
急に動きを止めたに、不信そうに少年がその顔を覗き込む。
「ぅわっ!!」
と、その瞬間いきなり体が宙に浮いて、思わず声を上げてしまった。
少年を肩に担いだは、すたすたと路地を進み始める。
「おいっ!降ろせよっ、何しやがる!!」
もちろん少年はしたばたともがくが、は気にも止めず歩を進め続けた。
「助けたからにはとことん助けてあげるわよ。傷の手当てしてあげる」
「だからってなんで担ぐんだ!!歩けるから降ろせよ!」
げしげしと暴れる足はの腹部を蹴る。
少しの痛みに涙汲みながらも、は足を止めた。
それでもせわしなく動く細い右足をぐっと握って圧迫する。
「いっ!!」
とたん、大きく跳ねた少年の体は強張ってくたりと抜けた。
はぁ、とは大袈裟にため息を付いてみせる。
「ほらみなさい。足くじいてて歩くのも大変なくせにナマいってんじゃないわよ」
「・・っ」
少年は返す言葉が無いのか、押し黙って大人しくなってしまった。
くやしそうに一度だけ、軽く腹部を蹴られて。
は一つ微かに笑いを零して、歩をまた進め始めた。
ぴちょん。
ベットに腰掛けた少年の足を、タライに満たした氷水で冷やす。
近くの宿屋の一室を借りたは、来ていた上着を椅子に掛けた。
「暫くそうしてなよ。落ち着いたら術で直してあげるから」
「・・・・ああ」
むすっと、今だ膨れている少年。
暇そうに切りそろえてない金髪を掻き上げる。
ふとその仕草に見覚えがあって、首を傾げた。
頭を抱えるに、少年はちらりと視線を流す。
「あんた・・ここらの人じゃねぇだろ。何処から来たんだ?」
「え!?」
思わず言葉に詰まる。
まさか未来から来ましたー!なんて言えない。つーか信じてもらえない。
泳いでいるだろう目を隠すため、くるりと少年に背を向けた。
「え・・っと、遠くよ。ずっと遠く」
あははー、と誤魔化すように笑うと、ふーんと特に興味無さそうな返事が返って来る。
どうやら深く追求はされないようで、はぁと息を吐いた。
向けていた背を翻して、少年に振り返る。
「アンタはココら辺に住んでるんでしょ?どうせなら後で送っていくけど」
「・・・別に。家あるけど帰るつもりないからいいよ」
「何、それ?」
ぱしゃりと水面から冷えた足を持ち上げて、膝を抱えた。
少し痛むのか、顔が歪む。
はぁ、とつまらなそうにため息を付いた。
「一緒に住んでるアニキと喧嘩してるから。暫くは帰るつもりないってだけ」
たいしたことじゃない、とばかりにさらりと言い捨てる。
はきゅっと眉を眉間に寄せた。
「お兄さん、心配してるよきっと」
「・・んなワケねぇじゃん。俺アニキに拾われたってだけだから、血も繋がってないし」
そんな冷めた少年の様子に、はぎりっと奥歯を噛み締める。
わしっとその金の頭を掴んだ。
「あんねぇアンタ」
「ヤム・クーだよ。アンタじゃなくて」
「ああ、んじゃヤム・クー。いい?家族っての・・は」
はた。
たり、と汗が垂れる。
すいません、そろそろ私も年でしょうか。
今、ヤム・クーとか聞こえたんですが?
「・・・・なんですと?」
その言葉に、少年は不機嫌そうにを見上げる。
「俺の名前はヤム・クーだっつってんの」
ヤム・クーヤム・クーヤム・クー・・。
何度か頭の中を反芻する名前。
・・・・・。
「ぇぇええええええっっっ!!!」
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まーた似たような続き方で(苦笑)
でもってやっぱ三話では終わりませんね、長くなりそう。
私の子ヤムはこんな感じです。
アニキとはヤム11才の時出会ってるって設定ですので、もうアニキと一緒に住んでる頃です。
さん強!!素手で男たちをやってます。それも開き直りが早いですな(笑)
いつもと言葉使いが違うヤムって新感触でしたvv
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