あの頃の自分は弱くて。
もがいても、もがいても出口がなくて。
そんな時、手を差し出してくれたのは、やっぱりアナタだった。



ピアス




「何、戻ってたんだ」
ヤム・クーが走り去ってしまった後、はあちこちを探していた。
しかし見つからず、宿に帰ってくれば、ヤム・クーはベットに伏せっている。
それに安堵を感じながら、ドアを静かに閉めた。
大分落ちてきた日の光が窓から溢れて、彼の金糸を輝かせる。
枕に顔を埋めて、動かない。
「・・寝てるの?」
軋むベットに腰掛けて頭を撫でれば、返って来たのはぴくりという微かな動き。
動きというより、震えと言った方がしっくりくるかもしれない。
はあ、とため息をついた。
撫でてた手は、そのまま頭の上。
カァカァカァと、何羽かのカラスの鳴き声が追い駆けるように響いた。
しっとりと、夕方の圧力が部屋に溢れる。
「・・・なんで、逃げたの?」
そんな、静かな空間を破るのトンとした声。
答えは案の定なくて、は少し顔を傾けた。
「ヤムってさぁ・・・」
一呼吸置く。
それを不思議に思ったらしく、ヤム・クーが目だけ覗かせてきた。
にっと、その青に笑いかける。
「アニキ大好きなんだね」
「・・っな!!」
かばっと勢い良く起き上がった。
はにやにやと笑いながら、そんな彼を見つめる。
「だってあたしが助けた時も、あれってお兄さんを馬鹿にされたかなんかで喧嘩してたんでしょ?アニキの足元にもおよばねぇんだよ!って言ってたし」
ヤム・クーの台詞のところだけ、少し演技掛かって言った。
それに、顔を赤くしたヤム・クーは、握りこぶしを作って俯く。
ふ、とは微笑み直した。

「自分のせいでお兄さんが悪く言われるの、嫌で逃げたんでしょ?」

核心をつく。
ヤム・クーの拳だった掌が開かれて、また握り締められた。
否定しようとしたらしい口元も、開かれて閉じられる。
は俯きがちの彼の傍らに立ち上がった。
そんなヤム・クーの頭を、ぐしゃぐしゃと思いっきり掻き混ぜる。
猫ッ毛な髪はすぐにこんがらがりそうで、彼の顔がおもっいっきり歪んだのが見えた。
は手を止めて、見えないように苦笑する。
「そっか。うん。いいよ、無理しないで」
もう一度、くしゃっと撫でた。
乱れた髪の間から、揺れる瞳が見上げてくる。
はそれに困ったように少しだけ笑って、次には意地悪く笑って見せた。
「多分ね、そのためにあたし来たんだと思うわ」
「?」
ヤム・クーはの言っている意図がつかめず、眉を顰める。
それとは反対に、やっと自分がすべきことがわかったは、すっきりしたような顔をしていた。

要は。
「仲直りさせろってことね」
ぽそり、と聞こえないように呟く。
窓の外では沈みかけた太陽が、すまなそうに赤くなっていた。











三日目の朝。
宿屋の一階にある食堂から、おいしそうな香りが漂ってくる。
それに、ぱちりとヤム・クーは目を覚ました。
体を起こして伸びをすれば、ベットが少し柔らかすぎるせいか腰がポキポキといい音を発てる。
ふぅ、と一息つくと、隣のベットでまだくーすか寝息を発てているを見た。
くせなのだろうか。
うつ伏せで、枕を抱え込むようにしている。
「・・・・」
ベットから降りて、ぺたと裸足で一歩の寝るベットへ歩み寄った。
寝顔があまりにも気持ち良さそうなので、なんとなくその鼻をつまむ。
すると息苦しいのかが唸って、ぱっちりと目を開けた。
ヤム・クーは軽く口元だけ笑いながら、その手を離す。
「安眠妨害しやがって・・・」
寝起きの低い声が向けられた。
「アンタだって昨日俺のこと起こしたじゃねぇか」
「あれは起そうとしたんじゃないっての。独り言よ独り言」
がしがしと頭を掻きながら、は体を起こした。
そのままベットに腰掛けるようにする。
ヤム・クーはその傍らで、意地悪い笑いでを見下ろした。
「ああ、年取ると独り言が多くなるって本当なんだな」
「なんか言った?」
ぎろりとに睨まれて、別に、と背を向ける。
その背中には、昨日の彼の様子はまったく見えなくて、は内心ほっとした。
ふと、くんっと朝食のいい香りが鼻を掠める。
一気にお腹が空腹を訴え、今日の朝食はなんだろうと座ったままサイドテーブルのメニューに手を伸ばした。
しかしあとちょっとで届かず、唸りながらもう一分張りする。
そんなの隣で身支度をしていたヤム・クーから、いきなりため息が零れた。
それに、メニューに手を伸ばしつつ、首をかしげる。
すると、ヤム・クーはうんざりといった様子で、胸元を指差す仕草をした。

「下着丸見え」

寝乱れた浴衣で上体を倒せばもちろん中は丸見えなわけで。
そりゃもうぱっくりと、見事に下着が見えてしまっていた。
「っうぎゃぁ!!早く言わんかい!」
さすがのも顔を赤くして、襟元を両手で押さえる。
ヤム・クーは頭を抱えると、メニューを取って静かに歩み寄った。
一方はまだブツブツと、「はずいな〜」等と言っている。
なんとか浴衣を整えたらしいに、それを無言で差し出した。
「んぁ?ああ、ありがと」
胸元を押さえていた手を伸ばして、メニューを受け取ろうとした。

「・・・アンタってさ」

その瞬間。
受け渡されるはずだったメニューは手から滑り落ち、代わりにヤム・クーの手が腕を掴んでくる。
そのまま視界がくるりと回って。
気付けば、目の前には天井を背景にしたヤム・クーと。
押さえられた両手と。
ベットに沈み込んだ自分と。
あと、落ちたメニューが在って。
見上げれば、見下ろされてるせいで、少し陰ったヤム・クーの顔が見える。
いつもは前髪で見えにくい目も、ちゃんと二つとも自分を映していた。
「男と夜2人で怖くないわけ?」


あ、これって押し倒されてんのか。


自分でも遅っ!などと突っ込みながらも、その台詞で確認。
しかし掴まれている両手は、思ったほど痛くない。
まだ呆けているようなの顔に、ヤム・クーは顔を近づける。
「それとも、俺のことガキだと思って油断してた?」
に、といわゆる男の顔で口元だけ笑った。
吐息が掛かるほどの距離。
それでもは微動だにせず、くす、と一つ笑いを零す。
むっ、と明かに不機嫌になった目の前の顔。
は軽くヤム・クーの肩を押して、少し身を引かせた。
「違うっての。アンタは男だし、ガキだとも思ってないよ」
「・・・・じゃあなんだよ」
拗ねているような声。
それにまた笑って、はヤム・クーの目に映る自分を見つめた。
「アンタ、は。むりやり女を抱くようなヤツじゃないでしょ」
決してそれは疑問系ではなく。
むしろ決定形で。
「・・その自信はどこからくんだ」
すっかりやる気を無くした様に、ヤム・クーは脱力気味に体を起こした。
ついでに、押し倒したの腕も引いて起き上がらせてやる。
「んー、まぁ長年付き合ってるとわかるもんよ」
「長年って・・・、まだ3日も経ってねぇぞ」
よいしょ、とは立ち上がると、身支度を整えた。
跳ねた髪に、一度だけ櫛をとおす。
見ていたドレッサーの鏡越しに、ヤム・クーに視線を向けた。
「その内、嫌でもずっと一緒にいるって」
「はぁ?」
まったく理解できないヤム・クーに、は笑いを一つ零して。
ぽんっ、と横切りついでにその肩を叩いた。
「ま、それは何年後の楽しみってことでよろしく」
あははー、と手を振って、は部屋を出て行く。
閉まったドア越しに、階段を下りる音が聞こえた。
と同時に、主人に朝食をねだる大きい声も。
ヤム・クーは気が抜けたような息を零し、途中だった身支度を再開する。
来ていたシャツを脱げば、いきなり走った耳元の痛み。
顔をゆがめながら、耳につけていたピアスに手を伸ばした。
留め金にシャツの繊維を引っ掛けてしまっているようだ。
そっと留め金を外して、手の上に転がす。
少し血が付いてしまった、それでも元から赤いピアス。
それをぎゅっと掌で包み込んだヤム・クーは、ゆっくりと俯いた。


「・・・・変な女」



心からの、本心。









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長ぇ・・・まじで。
ヤム君、襲ってます。
大人ヤムだと、んなこと出来ないんでやってみました(笑)
うみみ・・いつまでやるんだか・・・。



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