俺の、小さなこのわがままを。
神様、アナタは許してくれますか?



わがまま。





とてとてとてとてとてとて。

くるり。

ぴた。



とてとてとてとて。

くる。

ぴたり。




そんな、歩いては自分を振り返って歩みを止める動作を何度もするさんに俺はくす、と笑った。
それが気に入らなかったのか、さんはむっとしたようで。



「もう、ヤム歩くの遅いって!」



俺の数歩前に腰に手を当てて仁王立ちするさんは、叱るように言った。
いや、叱ってるのかも。



「あー・・そうですか?」



わざとゆっくり言ってやる。
すると、さんは眉をきゅっと寄せた。
ようやく並んだ俺を見上げる。

「だってヤムがあたしの前歩いたのって見た事無いよ」




・・・そりゃそうだ。
だってわざとそうしてるんですよ。



そんな言葉がつい出てしまいそうになったが、なんとか飲み込んだ。
言ってしまったら、むりやりにでも前に歩かされそうだし・・・。
ごまかすために、にこりと笑った。




「ほら、早く行こ!今日は一緒にお昼食べるんでしょ?ヤムの歩くペースじゃ夜になっちゃうって」


「そんな、そこまで俺遅くないですって」
「いや!遅い!!」

ぐいぐいと、俺の腕を抱えるように両手で抱きしめて前に引っ張るさん。
その仕草はいつもの姿と比べて、なんだか子供っぽく見える。




さん」

「なによ」





一生懸命、俺を引っ張る姿。
くす、と声に出して少し笑った。







「大好きですよ」





ぴた、とさんの動きが止まる。
俺の腕を離して、俯いてしまったその顔を覗き込んだ。
下唇を噛んでいるさんは耳まで赤くなっていて。





・・これは意外な反応・・・。
普段、嫌と言うほどさんには言われてるんですけど・・?








「あー・・・あのね、ヤム・・」
ぽりぽりと頭を掻いて、まだ少し赤い顔をさんは上げた。
「あたしさ、不意打ちと押しには弱いわけよ。だから、・・その、結構そういうのびっくりしちゃうんだけど?」



つまり・・。
「大好き」って言うのは平気だけど、言われるのは駄目ってことか?
・・・。
なんだか・・・さんらしいっていうか。



「ぷっ・・っくくく」

俺は思わず吹き出してしまう。
さんはそれにまた顔を赤く染めた。

「ちょっと!!笑うなぁ!!」

「くく・・。すいません・・・・・・・ぷっ」





なかなか笑いが収まらない俺に、さんはむーーっと膨れて、
すたすたすたと早足で前に行ってしまった。
俺もゆっくりとその後ろについて歩き出す。
笑いは口の上にだけ乗せて。


「・・さん」



「・・・・なに」



少し、不機嫌そうな声。
前を行く背中が、ぴくりと反応した。




さん」


また、呼ぶ。
すると、今度は少し顔を後ろに向けてきた。

「なによ」



それでも、やっぱり不機嫌な声。



にこりと俺は微笑んだ。







「・・呼んでみただけです」








「・・・なんだ、もう」


さんはくるりと前に顔の向きを戻した。
その背中は、さっきよりは機嫌か良くなったように俺には見える。









ねぇ、さん。
俺がわざと後ろを歩く理由、わかりますか?






すたすたすた。


くる。


ぴたり。







アナタが俺の前を歩いて。

後ろに俺がいるか振り返って。

俺が追いつくまで待っていてくれて。


それが俺はすごく嬉しいんです。

馬鹿みたいに、笑いが止まらなくなるんです。

幸せなんだと、実感してしまうんです。





だから。





すたすたすた。


くる。


ぴたり。













神様、こんな俺の小さなわがままを、今だけでもいいから、許してください。







END

ひさびさヤムほのぼのドリー夢です。
今回は珍しくヤム一人称にしてみました。
むつかしいですなー。
敬語にしてもなんだし、普通の言葉にしましたが。
照れるさんv
ちょっとやってみました。
いつも傍にいることがあたりまえな人に、改めて「大好き」って言われるのって、
結構恥ずかしかったりしますよね。
私も実は後ろを歩くのが好きです。
前歩いてて、もし後ろにいる人がいつのまにかいなくなってたりとかしたら嫌なんですよ。
寂しいじゃないですか、あれ。
だからいつも私は大体人の後ろを歩きます。




もどる。





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