忘れちゃいけない。
そんな人、あたしにいたのだろうか。
ドミノ
こつ、と釣りをしているヤム・クーの後頭部が誰かに小突かれる。
それに、空を仰けば、覗き込んできてたのは見慣れた顔で。
にこりと微笑めば、も少しだけ笑った。
「ヤム・クーさんならここにいるって、シーナに聞いたから」
「そうですか、大体俺ここにいますからね」
やりますか?とヤム・クーの持っているのとは別の竿が渡されて、はこくりと頷く。
その背中に、自分のそれも合わせて、釣り針を海面に落とした。
ぽちょん、と軽い音。
それからはお互いなんとかく話さなくなって、沈黙が響いた。
「・・・ねぇ、ヤム・クーさん」
そんな沈黙をはじめに破ったの声はやけに低くて。
少し、控えめに聞こえた。
「なんですか?」
視線を巡らせてに振り返れば、俯きがちな背中が見える。
「どうして医務室から出てっちゃったの?」
拗ねているような、声。
「は?・・ああ、いえ、皆さんが来てましたから。俺は邪魔になると思いまして」
急な質問に、首を傾げながらもヤム・クーは答えた。
は一つため息を付いて、ヤム・クーの背中に体重を預ける。
「それならいいんだけど、怒って出てっちゃったのかと思ってさ」
「怒る?なんで俺がさんに怒るんですか」
「だって、あたしヤム・クーさんのことだけ忘れちゃったから。・・それに」
途中で言葉を切ってしまったを、不思議に思うヤム・クー。
顔を見たいが、自分の背中に寄りかかっているためそれも出来ない。
「ビクとシーナがさ、ヤム・クーさんのことは忘れちゃいけないって言ってたから」
なんとなくだが、落ち込んでいる雰囲気が声色から感じられた。
余計なことを言ってくれて、とビクトールとシーナに悪態を付きながら、ヤム・クーは釣り針を海中から持ち上げる。
身体を反転させて、の身体を自分の胸に寄りかからせた。
上から覗き込むようにして、の顔を見る。
にっこりとヤム・クーは微笑んだ。
「いいんですよ。俺のことは気にしないでください」
優しい、笑顔。
ずきんっ!
「っっつ!」
いきなり頭に走った痛みに、は顔を歪めた。
ずきんずきんずきん。
鼓動と一緒に刻む痛み。
「さん!?大丈夫ですか?」
頭上からヤム・クーの心配そうな声が聞こえる。
視線を上げれば、声と一緒で心配そうな顔。
でも、何故かその顔はひどくぼやけていて。
「・・・・さん?」
ぽたり、と。
自分の頬に伝うものに気づいたのは、それが地面に落ちた時だった。
「〜〜〜〜っっ!!」
なんでなんで。
なんであたしは泣いてるんだろう。
ただ、この人のあたたかさを。
ただ、この人の優しさを。
ただ、この人の笑顔を。
やっぱりどこかで知っている気がして。
「どうしたんです?頭、痛むんですか?」
そんな声に、また涙が溢れてきた。
駄目だ。
この人と一緒にいてはいけない。
だって。
「っごめん!!」
勢いよく立ち上がったは、そのまま一気に走り去ってしまった。
まるで逃げるようなそれに、ヤム・クーも思わず立ち上がる。
追いかけようと駆け出したその瞬間、視線の下に捕らえたある物に足をとめた。
屈んで、光を反射するそれをそっと掌に載せる。
「・・これって・・・」
怖い。
思い出したくない。
きっと、あの人はあたしの大切な人だったから。
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んぎゃーーー!!!
2話で終わるとあれだけ言っておきながら終わらないとわ!!(駄)
あああ、もっと文才が欲しいです、まじで。
どうもその状況を説明したりするのが私へたですよね。
ちょっちスランプな文ですなー(言い訳?)
次こそ!!終わらせます!!
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